当研究室から出た論文の解説記事を更新していきます。
A non-canonical BZR/BES transcription factor regulates the development of haploid reproductive organs in the liverwort Marchantia polymorpha Furuya T, Saegusa N, Yamaoka S, Tomoita Y, Minamino N, Niwa M, Inoue K, Yamamoto C, Motomura K, Shimadzu S, Nishihama R, Ishizaki K, Ueda T, Fukaki H, Kohchi T, Fukuda H, Kasahara M, Araki T, Kondo Y. Nature Plants 2024年 4月
被子植物が有性生殖器官として「花」を作り出すのに対し、コケ植物は有性生殖器官として造卵器や造精器をつくります。本研究ではモデルコケ植物ゼニゴケを用いた大規模遺伝子発現解析のデータから有性生殖器官で顕著に発現する遺伝子としてBZR/BES転写因子をコードするMpBZR3を発見しました。分子遺伝学的解析からコケ植物の造卵器や造精器の発生過程にMpBZR3が重要な役割をもつこと、またMpBZR3は異所的に有性生殖器官を誘導する能力があることを明らかにしました。さらにMpBZR3がこれまでにほとんど研究されてこなかった”非典型”のBZR/BES転写因子であり、植物の有性生殖システムの進化に寄与した可能性を見出しました。
Gene co-expression network analysis identifies BEH3 as a stabilizer of
secondary vascular development in Arabidopsis.
Furuya T, Saito M, Uchimura H, Satake A, Nosaki S, Miyakawa T, Shimadzu
S, Yamori W, Tanokura M, Fukuda H, Kondo Y.
The Plant cell, 33 2618–2636 2021年6月
植物は生涯にわたって幹細胞を維持することで永続的に発生・成長し続ける性質を持っており、それには幹細胞の増殖と分化とのバランスを保つことが重要となります。幹や茎を太くする肥大成長は、形成層と呼ばれる分裂組織に存在する維管束幹細胞が増殖し、道管や篩菅を構成する細胞に分化することによって成り立っていますが、これまで維管束幹細胞を安定的に維持する仕組みはわかっていませんでした。この論文では、維管束分化誘導系VISUALを用いた情報生物学的解析から維管束の発生過程に特徴的な遺伝子発現ネットワークの構築に成功し、その中から維管束幹細胞を制御するBES/BZR転写因子ファミリーに属するBEH3を新たに見出しました。遺伝子機能の解析から、BEH3は他のBES/BZR転写因子と比べて遺伝子発現調節の活性が著しく弱いことがわかりました。これらの機能の違いにより、BEH3が他のBES/BZR転写因と競合的に働くことで、維管束幹細胞の増殖と分化の制御を安定化させるという新たな幹細胞維持の仕組みを明らかにしました。
VISUAL-CC system uncovers the role of GSK3 as an orchestrator of vascular
cell type ratio in plants
Tamaki T, Oya S, Naito M, Ozawa Y, Furuya T, Saito M, Sato M, Wakazaki
M, Toyooka K, Fukuda H, Helariutta Y, Kondo Y
Comms Biol. 3, Article number: 184 2020年4月
この論文では、糖やホルモンの輸送を担う「篩管細胞」とそれらのサポートをおこなう「篩部伴細胞」の2種類の細胞の分化比率を決める因子の特定に成功しました。通常のVISUALでは、道管細胞と篩管細胞を高頻度で誘導できるものの、篩部伴細胞の誘導はできませんでした。そこで、ホルモンなどの培養条件を色々と試すことで篩部伴細胞を誘導できる条件の探索を進めました。その結果、オーキシンやbikininの濃度を減らすことで篩部伴細胞様の細胞を誘導することに成功しました。この系を”VISUAL-CC"と名付け、詳細な解析をおこないました。
VISUAL-CCにおいては、「篩管細胞」と「篩部伴細胞」の形成率が負の相関関係にあることが遺伝子発現解析の結果から明らかとなってきました。この形成率はbikininの濃度に依存することが明らかとなり、実際にbikinin濃度を変化させることで、伴細胞の分化率が大きく変わることがわかってきました。bikininはGSK3キナーゼの活性を阻害する阻害剤であることから、植物体内でGSK3活性を遺伝学的に変化させることで篩部組織におけるそれぞれの細胞比率を操作することに成功しました。詳しくはこちらのプレスリリースをご覧ください。
Deep Imaging Analysis in VISUAL Reveals the Role of YABBY Genes in Vascular
Stem Cell Fate Determination.
Nurani AM, Ozawa Y, Furuya T, Sakamoto Y, Ebine K, Matsunaga S, Ueda T,
Fukuda H, Kondo Y.
Plant & cell physiology 61(2) 255-264 2020年2月
この論文では、維管束分化誘導システムVISUALを活用し、維管束幹細胞の運命を決定づける因子の探索をおこなった。VISUALにおいては、維管束幹細胞から篩管細胞・道管細胞の両方を誘導することができるが、更にここに化合物ライブラリーを加えて、幹細胞の運命を篩管細胞もしくは道管細胞へと偏らせることができる物質の探索をおこなった。スクリーニングの結果、運命を偏らせる化合物の単離にはいたらなかったが、代わりに道管細胞の二次細胞壁(特にリグニン)を標識する化合物BF-170を発見することができた。
このBF-170を用いてVISUALにおける深部イメージングをおこなったところ、子葉の向軸(表側)に道管細胞がよく形成され、逆に背軸(裏側)に篩管細胞が形成されることが明らかとなった。そこで位置情報が幹細胞の道管もしくは篩管細胞への運命決定に重要ではないかと考え、裏の極性決定に関わる因子に着目をし、それらの変異体においてVISUALの道管分化の表現型を観察した。その中でYABBY3(YAB3)と呼ばれる因子の変異体において、裏側においても道管細胞がよく分化していることが明らかとなった。実際にyab3の機能欠損変異体やYAB3ox過剰発現体の胚軸維管束においても、道管細胞と篩管細胞の割合が変化しており、向背軸極性に関わるYAB3遺伝子が維管束幹細胞の運命決定にも関与することが示唆された。