プロジェクト


維管束は植物の体中にはりめぐらされている通道組織系であり、植物の生育には必要不可欠です。水などを輸送する道管と糖などを輸送する篩管は、両者に挟まれた分裂組織・形成層からつくられます。私たちの研究室では、多様な維管束細胞がどのようにして作られているのか、そしてどのようにして機能を発揮しているのかを構成生物学的アプローチ・システム生物学的観点から研究を進めています。

 

植物細胞運命初期化のメカニズムの解析

VISUALの過程においては、葉肉細胞から幹細胞へと運命が初期化(リプログラミング)されます。動物の幹細胞においても初期化のメカニズムは解明されておらず、植物がもつ脱分化能は再生医療に貢献できるポテンシャルを秘めています。私たちは、遺伝学的アプローチやエピジェネティクスの観点からこれらの謎に対して取り組んでいます。TORを含む糖シグナルがかかわることが見いだされてきています。

 

幹細胞多分化能性の分子基盤の解析

通常、VISUALにおいては道管細胞・篩管細胞の両方がつくられます。これまでに細胞運命の自在操作を試み、VISUALの培地組成を変化させることで、篩管細胞への分化を優先的につくりだすことができるようになりました。この系をVISUAL-PHと名付け、VISUALと比較ネットワーク解析をおこなったところ、形成層細胞の段階で運命の振り分けがおこなわれていることがわかってきました。そこで、現在は1細胞解析また発光イメージング解析による1細胞レベルでの分化運命のダイナミクスを調べ、多能性の分子基盤にせまっています。また、遺伝学解析から木部・篩部の分化比率を変える変異体も単離されてきています。

 

糖シグナルによる維管束幹細胞運命制御

植物は、昼間に光合成をして糖を作り出しデンプンの形で貯蔵します。夜間には、デンプンを分解しエネルギーとして利用します。また糖は植物にとって、エネルギー源だけでなく、骨格としての細胞壁構築においても非常に重要です。維管束は糖をスクロースの形で運搬しますが、糖がどのように維管束発生に影響をあたえるのかは分かっていませんでしたが、私たちの研究により様々な糖の中でもスクロースが幹細胞の木部・篩部分化を負に制御することがわかってきました。またその制御経路には転写因子BES1が関わることも示唆されてきました。現在は糖センサーを明らかにするため、BES1とアミラーゼとの融合遺伝子について研究を進めています。
 他に糖以外にも概日時計など環境要因が維管束幹細胞運命に与える影響について調べています。


新規細胞分化誘導系の開発による維管束機能の解析

維管束は道管・篩管細胞以外にも多様な細胞から構成されています。例えば、篩管細胞は分化の過程で核を失いますが、生きています。これは隣接する篩部伴細胞が、篩管細胞の生命維持に関わっているためです。他にも伴細胞は、篩管細胞への物の積み卸しや外的環境を感知し統合する中枢的な機能をもつことがわかっています。そこで伴細胞の運命決定機構を理解するために、VISUALの培地組成を改変し、伴細胞分化誘導システム(VISUAL-CC)の構築に成功しました。現在、この系を駆使して伴細胞がどうやってつくられるのか、そしてどうして篩管細胞の隣に正しくつくられるのかを明らかにしようとしています。篩部伴細胞の機能的な側面についてもとても興味があります。木部柔細胞・繊維細胞などまだまだ誘導に成功していない維管束細胞もあります。それらの人為的誘導を通して、維管束細胞の機能理解につなげていきたいと思います。

 

イチョウ(裸子植物)でのVISUAL分化誘導系の開発

シロイヌナズナだけでなく、裸子植物であるイチョウにおいて維管束分化誘導系VISUALの構築を目指しています。イチョウは最近になり、ゲノムが解読されました。また植物の維管束進化を考えるうえで中間的な立ち位置にあますが、維管束発生の研究はほとんどおこなわれてきませんでした。新たにイチョウVISUALを確立し、網羅的遺伝子発現解析から幹細胞制御システムや維管束輸送システムの違いを明らかにしようとしています。

 

新規解析機器の開発

研究を進めていると、こんな機器があったら、あんな測定やこんな観察ができるのにという状況にでくわすことがあります。得てしてそういった場合、新規の機器が研究の大きな突破口になったりもします。私たちは、そういった機器を可能な範囲で自作することで、自分たちの研究や他の人たちの研究に役立てようと頑張っています。例えば発光顕微鏡は、ルシフェラーゼ発光を画像として撮影することで、レーザーによるダメージやバックグラウンドのノイズを抑えることができ、長時間の経時イメージングが可能になります。またVISUAL誘導時の細胞運命を定量的に調べるため、インキュベーター内で分化誘導をかけながら発光強度を測定できる経時測定機器を組み立てました。このように、研究を進めるうえで有効な機器やツールの開発もおこなっています。


これまでの成果

業績リストにまとめていますので、こちらをご覧ください。