プロジェクト


維管束は植物の体中にはりめぐらされている通道組織系であり、植物の生育には必要不可欠です。水などを輸送する道管と糖などを輸送する篩管は、両者に挟まれた分裂組織・形成層からつくられます。私たちの研究室では、多様な維管束細胞がどのようにして作られているのか、そしてどのようにして機能を発揮しているのかを構成生物学的アプローチ・システム生物学的観点から研究を進めています。

植物細胞運命初期化のメカニズムの解析

VISUALの過程においては、葉肉細胞から幹細胞へと運命が初期化(リプログラミング)されます。動物の幹細胞においても初期化のメカニズムは解明されておらず、植物がもつ脱分化能は再生医療に貢献できるポテンシャルを秘めています。私たちは、逆遺伝学的アプローチやエピジェネティクスの観点からこれらの謎に対して取り組んでいます。

維管束分化制御を支配する制御ネットワークの解明

VISUALを用いた遺伝学的解析から、維管束の道管分化・篩管分化は転写因子であるBES1ファミリーメンバーによって制御されることがわかってきました。bes1の変異体では、VISUAL誘導をおこなっても過剰な道管・篩管分化がおこらず、形成層細胞のままでとどまってしまいます。この際、APLやVND6/7といった分化のマスター因子は誘導されません。BES1ファミリーがどのように、細胞分化を促進しているのかを明らかにするため、順遺伝学的スクリーニングをおこない、いくつかのbes1変異体抑圧変異体を得ました。また、最近ではBES1ファミリーメンバー間で分化に促進的に働くもの・抑制的に働くものの2パターンが明らかとなり、信号のような働きをもつことがわかってきました。これらは発生のロバストネスを実現するために、重要な仕組みであると考えています。そこで、BES1ファミリーの祖先的な機能を調べるため、維管束をもたない苔類ゼニゴケを用いた分子生物学的解析もはじめました。

幹細胞多分化能性の分子基盤の解析

通常、VISUALにおいては道管細胞・篩管細胞の両方がつくられます。これまでに細胞運命の自在操作を試み、VISUALの培地組成を変化させることで、篩管細胞への分化を優先的につくりだすことができるようになりました。この系をVISUAL-PHと名付け、VISUALと比較ネットワーク解析をおこなったところ、形成層細胞の段階で運命の振り分けがおこなわれていることがわかってきました。そこで、現在は1細胞解析また発光イメージング解析による1細胞レベルでの分化運命のダイナミクスを調べ、多能性の分子基盤にせまりたいと考えています。

分化運命可塑性の研究

古くから篩部細胞をつくることができない変異体aplでは、本来篩管ができる位置に道管様の細胞がつくられることが知られています。このことは、細胞の運命がさかのぼって書き換えられる可能性を示唆しています。この仕組みについてはいまだ明らかとなっていないのですが、最近私たちの研究室では、VISUAL-PHを利用いてこの現象の再現に成功しました。誘導系を駆使して、植物分化運命の可塑性についての謎を解き明かしていきたいと思います。

新規分化誘導系の開発による維管束機能の解析

維管束は道管・篩管細胞以外にも多様な細胞から構成されています。例えば、篩管細胞は分化の過程で核を失いますが、生きています。これは隣接する篩部伴細胞が、篩管細胞の生命維持に関わっているためです。他にも伴細胞は、篩管細胞への物の積み卸しや外的環境を感知し統合する中枢的な機能をもつことがわかっています。そこで伴細胞の運命決定機構を理解するために、VISUALの培地組成を改変し、伴細胞分化誘導システム(VISUAL-CC)の構築に成功しました。現在、この系を駆使して伴細胞がどうやってつくられるのか、そしてどうして篩管細胞の隣に正しくつくられるのかを明らかにしようとしています。篩部伴細胞の機能的な側面についてもとても興味があります。

新規解析機器の開発

研究を進めていると、こんな機器があったら、あんな測定やこんな観察ができるのにという状況にでくわすことがあります。得てしてそういった場合、新規の機器が研究の大きな突破口になったりもします。私たちは、そういった機器を可能な範囲で自作することで、自分たちの研究や他の人たちの研究に役立てようと頑張っています。例えば発光顕微鏡は、ルシフェラーゼ発光を画像として撮影することで、レーザーによるダメージやバックグラウンドのノイズを抑えることができ、長時間の経時イメージングが可能になります。またVISUAL誘導時の細胞運命を定量的に調べるため、インキュベーター内で分化誘導をかけながら発光強度を測定できる経時測定機器を組み立てました。このように、研究を進めるうえで有効な機器やツールの開発もおこなっています。


これまでの成果

業績リストにまとめていますので、そちらをご覧ください。